第8回日本CNS看護学会

市民公開講座

その人の生きるちからを引き出すケア

アンケート

演者: 石垣靖子(北海道医療大学 名誉教授)
座長: 市原美穂(全国ホームホスピス協会 理事長)

石垣靖子(北海道医療大学 名誉教授)

 臨床にいたとき目標とする看護師像として、次の3つを掲げ職員と共有してきた。その一つはCompetentで専門職業人として有能であること。二つ目のCompassionateは思いやりがあること。そして最後はUnhurried manner 物静かな態度である。

 ホスピス緩和ケアの対象である患者は多くの苦痛を抱えている。特にがんによる痛みは心身の消耗が激しく、その人の生きる力を弱めてしまう。痛みをはじめとする苦痛症状の緩和は症状のアセスメントから始まる。痛みは主観的で感情的な体験(国際疼痛学会)なので、気分に大きく左右される。従って初期アセスメントによって痛み治療が始まると、治療中は継続的にアセスメントすることが欠かせない。24時間患者の状況を知りうる立場にいる看護師の役割は大きい。「もし、この病院で痛みを訴えている患者がいるとすれば、それはナースの責任である。なぜなら医師はそこにいないから」と言ったラマートン医師の言葉を思い出す。痛みに限らずすべての症状コントロールは、看護師が一人ひとりの患者の病態や薬理、そして治療について理解し、苦痛症状の緩和に貢献する能力、competentが求められる。

 Compassionはコロナ禍のなかで強調されるようになったが、ジョアン・ハリファックスは、「自分自身や相手と“共にいる”ちから」と定義している。私たちは一人では生きてはいけない存在である。人との“つながり”は生きる上で欠かすことはできない。困難な状況にある人にとって、“共にいる”人がいることは、どんなにかその人の生きるちからを引き出すことか。私たち人間存在には“つながりの中でいのちが輝く”というプログラムが内在しているからだ。

 そして、最後のUnhurried mannerは成熟した専門職の在り方である。それは、相手の言語、非言語の表現を聴くことのできる能力でもある。気になることや不安なこと、時にはこれまでの人生などを静かに聴いてくれる人が傍らにいることは、何にもましてその人の生きるちからを引き出すに違いない。

 この3つの目標は、専門職にとって終わりのない挑戦であり、そのケアのプロセスで患者・家族の生きるちからが引き出され、看護師の人間的な成長につながっていくと確信している。